映画『甘いお酒でうがい』の感想 何者にもならなくていい自由
こんにちは。空飛ぶ人です。
僕は非正規雇用で平日と土日と働いており、自分の中で自分の身分は「フリーター」ってことにしています。
あまり共感してもらえないんですが、アラサーの独身男しかも別に仕事にバリバリ打ち込んでいるわけでもない人間への風当たりって、案外きついものがあります。まあ客観的に見ても「なんで生きているの?」って感じですが・・・。
今回鑑賞したのは、母にも、バリバリのキャリアウーマンにもならなかった五十路近い女性の日常を描いた『甘いお酒でうがい』。
僕自身の境遇・状態からすると、解りみが深く、そこはかとない不安感にかられる描写もあったのですが、何故か見終わったときに肩の荷が下りるような不思議な魅力のある作品でした。
作品情報・あらすじ
監督 大九明子
脚本 じろう(シソンヌ)
公開日:2020年9月25日
ベテラン派遣社員として働く40代独身OLの川嶋佳子は、毎日日記をつけていた。
撤去された自転車との再会を喜んだり、変化を追い求めて逆方向の電車に乗ったり、踏切の向こう側に思いを馳せたり、亡き母の面影を追い求めたり···。
そんな佳子の一番の幸せは会社の同僚である若林ちゃんと過ごす時間。
そんな佳子に、ある変化が訪れる。それは、ふた回り年下の岡本くんとの恋の始まりだった···
映画『甘いお酒でうがい』 予告編90秒 かなでさん Ver.
感想
40代(後半)独身の主人公川嶋佳子。物語は日記に書かれた彼女の何気ない日常の様子の切り貼りでつづられていきます。そのため1つ1つのエピソードが短く、どうでもいいような話が淡々と続くので、観る人によっては苦痛かもしれません。
自転車が撤去されただとか、雨の日に新しい靴をおろしただとか、20代の男性が観たらただひたすら美人だけどヤバめのおばさんの、ヤバいひとり語りを聞かされて、面くらってしまうと思います。
正直僕も最初は「おお・・・このペースで続いていくのか・・・」と不安になりましたが、後輩若林ちゃんを演じる黒木華の登場、さらに年下イケメンの登場あたりから話は面白くなります。
僕には序盤の川嶋佳子は残りの春を数えて生きているように見えました。日々の些細な幸せを大事にしているようですが、達観して、自分自身の人生に今後大きな事件は何も起こりはしないと、諦めきっているようにも見えます。
そのため、生きた日々が無意味なものではなかったという証が欲しくて、日々の何気ないことに幸せを見つけて印(日記)をつけていたのではないでしょうか。
年下イケメン岡本くんと出会ってお付き合いを始めても、幸せなはずなのに彼女の中でのモヤモヤは晴れません。この関係性も終わりが訪れることを知っているので、また残りを数えて落ち込んでいく。がっかりしないように過度な期待はしない、致命傷にならないようにあらかじめ最悪のケースを想定する。(非常に共感する・・・。)
誰かの母になることをあきらめて、自分の母も亡くしてしまった(はっきりと明言されてないがおそらく亡くなっている)。根無し草のようにふわふわと日常の世界から抜け出せずに彷徨う姿は『千と千尋の神隠し』のカオナシのようにも見えました。
そんな、過去と来ない未来の間をふわふわと紐の切れた風船のように漂う川嶋佳子の手をぎゅと握ってしっかしりと立たせたのが、後輩の若林ちゃんです。
川嶋佳子の「幸せ」が仕事での成功でも、恋愛の成就でもなく、ただそこにいる自分が笑っていることだと結んだラストは、とても優しくて観ていた僕も何か救われたような気がしました。
映画としては退屈な時間も多くて、松雪さんのボソボソとしたひとり語りもずーと聞いてるとちょっとしんどいなあと思ったので、「名作!」と手放しでは叫べませんが、母でもキャリアウーマンでも無い女性の、地味ながらも新しい幸せを描いた作品として見る価値はあったなと思いました。
このご時世、普通にTVや携帯見てるだけで、何でそんなに金あるの?っていう同世代の他人の裕福な生活や、汗かいて何かに心血注いでる姿が目に入ってきます。プロスポーツプレーヤーでも、1000万円プレーヤーでなくても、「生きてるだけで結構ハードモードなんだけどな、」と思っている人って結構多いのでは無いでしょうか。
イチローになれなくても、あなたの人生がイチローより劣っているわけじゃない。
鑑賞日:2020年10月9日
おすすめの度:★★★★★(5/10)
映画『82年生まれ、キム・ジヨン』の感想 男はみんな自覚のないシザーハンズなのかも
こんにちは。空飛ぶ人です。
前情報なしで観たので、ポスターのビジュアルと映画タイトルから、なんだかホンワカスローライフムービーかしらくらいに思っていたら、みぞおちぶん殴られる映画でしたよ・・・。知らずに女性専用車両に乗り込んだみたいな。
映画館は女性のすすり泣きの嵐。男性としては非常に居心地の悪い映画には間違いないですが、観て良かったなと思います。以下男性の僕から見た素直な感想です。
作品情報・あらすじ
監督:キム・ドヨン(やっぱり女性なんですね)
公開日:2020年10月9日
結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。常に誰かの母であり妻である彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。
そんな彼女を夫のデヒョンは心配するが、本人は「ちょっと疲れているだけ」と深刻には受け止めない。しかしデヒョンの悩みは深刻だった。
妻は、最近まるで他人が乗り移ったような言動をとるのだ。ある日は夫の実家で自身の母親になり文句を言う。「正月くらいジヨンを私の元に帰してくださいよ」。
ある日はすでに亡くなっている夫と共通の友人になり、夫にアドバイスをする。「体が楽になっても気持ちが焦る時期よ。お疲れ様って言ってあげて」。
ある日は祖母になり母親に語りかける。「ジヨンは大丈夫。お前が強い娘に育てただろう」――その時の記憶はすっぽりと抜け落ちている妻に、デヒョンは傷つけるのが怖くて真実を告げられず、ひとり精神科医に相談に行くが・・・。
『82年生まれ、キム・ジヨン』予告 10月9日(金)より 新宿ピカデリー他 全国ロードショー
感想
「様々な女性が憑依する」というジヨンの”トンデモ症状”。それはすべての女性たちの苦しみの代弁でした。
結婚、出産、育児を機に次第に精神を病んでいくジヨン。彼女を追い詰めたのは何か一つの出来事ではなく、”女性”を取り巻く社会の空気そのものでした。
少女時代に痴漢をされれば「男を誘うような恰好をしているお前も悪い」と言われ、父は男の弟しか見ていない。結婚をして子供が出来れば当たり前のように女性である自分がキャリアをあきらめる。
多くの女性たちが”個”をもぎ取られ、こうして「女性の役割を全うするだけの奴隷」にさせられているのかと、観ていて息苦しさを感じました。(自分も間違いなく、その一旦を担っている)
一番ハッとしたのは、ジヨンの周りでキャリアウーマンとして仕事を選んだ女性たちです。女性だけが、自分のキャリアを選ぶのであれば、世間一般の幸せな家庭はあきらめなければならないという事実。
日本テレビ『家売るオンナ』で、仕事と育児を両立しようとする登場人物に主人公が投げかけた言葉「『女性が輝ける社会』と言うが、どうして社会進出しようとすると、女性だけが”輝かなければならない”のか」というセリフを思い出しました。
観ていられなかったのが、ジヨンの一番そばで彼女を見守る夫。
「真綿で首を絞める」ってこういうことかと思いましたね・・・。ジヨンを心配しながらも、ジヨンに対して「働いて”も”いいよ」「僕も育児を”手伝う”」「僕が育児休暇をとるよ。ちょうど勉強の時間も欲しかったし」的な無神経なことをやさしい顔して言っちゃう。
自分の手がハサミだと気が付いていないシザーハンズですわ。
でもこういうことってやっちゃうし、たぶん男の人はこの映画を客観的に観ても気が付かない人は多いんだろうな。
映画・物語なので最終的にジヨンに対して希望が差す終わり方をしますが、すべての女性は地獄のような世界で生きているのだな。
以下の方の感想がとても印象に残ったので紹介させていただきます。
映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が日本公開で話題になっていると聞いて。韓国で公開初日に、娘の保育園で双子を育てているママ友と号泣しちゃうかもねーなんて期待をして行った。終了後あったものは、無感動の沈黙と「劇中のジヨンくらい恵まれてたら、もう1人子供産んでたよね」というお互いの感想 pic.twitter.com/Nc2uDIAoMD
— Yoko/陽子 (@redrain_seoul) 2020年10月12日
男として、「マジでごめんなさい」と思いながらも、本当に正直な気持ちとしては、長い歴史の中で作られてきた価値観だから、もう少し時間くれませんか。ジヨンの夫だって、寄り添おうとしているんだから責めないであげてね・・・。と思ってしまいますが、当事者=女性たちからビンタされそうですね。
物語としてはとにかく不幸に転んでいく展開なんですが、映画として見入ってしまう作りでした。単に説教臭くなく見られたのはよかったですね。
今年に入って韓国映画は『パラサイト』以降2本目ですが、日本からもこういう社会性とエンターテインメントを両立した頭抜けた作品が出てくるといいな・・・。
鑑賞日:2020年10月11日
おすすめ度:★★★★★★★(7/10)
映画『望み』の感想 丁寧に編まれた新しい堤幸彦監督の代表作(石田ゆり子は可愛すぎるけどね)
こんにちは。空飛ぶ人です。
堤幸彦監督最新作の『望み』を鑑賞してきました。堤監督ということで「観ないでいいかな・・・」と思っていたのですが、ベテランキャスト陣の凄みに気がつけば夢中になっていましたし、物語の運びに涙もしました。
堤監督の”個”を押し殺して基本に忠実な丁寧な演出に終始した本作。余計なことを一切していないのですがそれゆえに「このキャストと、脚本だったら、誰が撮ってもこうなるんじゃ・・・」と思わなくもないような・・・。
息子は事件の「加害者」なのか「被害者」なのか、ネタバレが許されない映画なので、まだ観ていない方にもネタバレにならない範囲で感想を述べたいと思います。
作品情報・あらすじ
監督:堤幸彦
公開日:2020年10月9日
一級建築士の石川一登(いしかわかずと)とフリー校正者の妻・貴代美(きよみ)は、一登がデザインを手掛けた邸宅で、高校生の息子・規士(ただし)と中三の娘・雅(みやび)と共に幸せに暮らしていた。
規士は怪我でサッカー部を辞めて以来遊び仲間が増え、無断外泊が多くなっていた。
受験を控えた雅は、志望校合格を目指し、毎日塾通いに励んでいた。冬休みのある晩、規士は家を出たきり帰らず、連絡すら途絶えてしまう。翌日、一登と貴代美が警察に通報すべきか心配していると、同級生が殺害されたというニュースが流れる。警察の調べによると、規士が事件へ関与している可能性が高いという。行方不明者は三人。そのうち犯人だと見られる逃走中の少年は二人。
息子は犯人なのか、それとももう一人の被害者なのか。
引用:映画『望み』公式サイト
感想
最悪の状況下で家族は”何を望むのか”
息子が事件に何らかの形で事件に巻き込まれていることは間違いがない。
その時、息子がたとえ被害者になっていようとも、人を殺めることなどしないと信じるのか、たとえ事件の加害者であっても、無事に家族の元に戻ってきて欲しいと望むか。
父は自分が育てた息子の倫理を信じ、母は息子の無事を願いますが、一番複雑なのが妹の立場だったと思うんですよね。妹として兄の無事を願いながらも、自身は受験を控える身で、立ちはだかる”容疑者”家族への世間からの攻撃に、兄のせいで自分の未来が塞がれてしまうのではないかと苦しみます。
兄にもらった合格祈願のお守りを抱きしめながら「お兄ちゃんは被害者であってほしい・・・」と口にするシーンはむちゃくちゃ苦しかったです。
映画冒頭、理想的にも見えた石田家に、事件発覚後影が落ちる。光で満ちていたリビングでは気がつかなかったそれぞれの立場や考え方の違いが、事件後輪郭を持ってくっきりと浮かび上がっていく様は一定の見応えがありましたが、もう少しそこの心理描写が中心にあっても良かったのかなと思います。どうしても息子が「被害者」なのか、「加害者」なのか、どうなるの!?っというオチに注目してしまいました。
一見、理想的な一軒家に見える家は、よくよく考えると親のエゴ満載で、思春期の少年・少女には不向きな作りなんですよね。そのあたりも何か示唆してるのかなと思いましたが、よくわかりませんでした。
石田ゆり子の母親役はキュートすぎ?
事件に巻き込まれて行方不明になる息子を演じた岡田健史くん。僕的には球児の頃から注目しており「高野連が産んだ奇跡」と呼んでいるんですけど、ここ最近の活躍は目覚しいですね。本作では、彼の持つ「何考えているかわからない」感じが、思春期の役にぴったりでした。薄々展開は読めるんですが、最後まで「被害者」なのか「加害者」なのかというハラハラ感を維持させることができていたのは彼自身にまだ俳優・芸能人としてのパブリックイメージが無いという点が大きく影響してるんではないでしょうか。
こんな息子、欲しいわ。
息子を信じながらも次々に現れる”加害者”説を裏づける事実に、気持ちが揺らいでいく堤真一。思次第に取り乱していき、2時間のうちに5〜10歳くらい老けていくんですよね。見事だな・・・。と見入ってしまいました。多くは語れないですが、終盤に見せる凄みのある演技は必見ですね。
妹役を演じた清原果耶ちゃんも非常に良かったですね。おまさせんながらも年相応に幼く、自分の中にあるアンビバレントな兄への思いに苦しむ姿がすごくリアルだったなと思います。
ちょっと僕の中で引っかかったのが母親役を演じた石田ゆり子さん。「ここが嫌!」ってところは無かったのですが、如何せん可愛すぎる。息子が事件に巻き込まれているとわかった後も、悲壮感が足りないんですよね。
主犯格の少年が捕まり、もしかしたら息子ももうじき逮捕されるかもしれないと、差し入れのお弁当を作るために買い物に出かけるという、側から見ると異常とも取れる息子を愛するが故の歪んだ行動を見せるシーンがあるのですが、そういう状況下って、周りのことが目に入らないと思うんですが、妙に聞き分けのいい優等生感が滲み出ちゃってるように思いました。もしかしたら妹さんの石田ひかりさんの方がこの役って合ってたんじゃないでしょうか。いやそしたら序盤の幸せな一家感が出ないのか・・・。
あとは、松田翔太さんの役どころが気になりますね。物語を運ぶためだけの役感が強い。『人魚の眠る家』の時の坂口健太郎くんみたいな使い方で気になってしまいました。あんな小綺麗でいい人感丸出しのジャーナリストって居るのか?とも思ってしまいました。
森山直太朗のエンディング曲がいい
森山直太朗さんのエンディング曲がものすごく素晴らしかったです。
曲名は「ネタバレでは・・・?」と思うのでここには書きませんが、無駄にエモーショナルに歌い上げるのでは無く、曲調も優しくそっと寄り添うような一曲で、この曲を持って本編が完結する感じです。
なもんで、この映画はエンドロールまでしっかり席に座って観ることをお勧めしたい。
というか、すぐには席を立てない内容なんですけどね。
最後に
ミステリー的な要素も大きいため、あまり多くを語れませんでしたが、観てよかったなと思える1作でした。物語終盤はずーと泣いてました。普通の感性してたら泣くと思う。
堤監督の作品は、テレビドラマ含めて結構多くの作品を観てきましたが、映画については本作が代表作となっていくのではないでしょうか。SPECの映画あたりで、「もう堤幸彦に期待なんかしない!!」と思っていたのですが考えを改めようと思います。
監督も歳を召されて、今後こっちよりの作品が多くなっていくんですかね。賛否両論を巻き起こす、『大帝の剣』みたいな超絶おバカムービーも作って欲しいような気もしなくもない。
鑑賞日:2020年10月11日
おすすめ度:★★★★★★★★(8/10)
9月に鑑賞した映画ランキング ベスト5
みなさんこんにちは空飛ぶ人です。
10月ももう中旬で今更感が凄いですが、9月に鑑賞した作品を振り返りもかねてランキング形式でご紹介しようと思います。ただのアラサーが何様だって感じがありますが、お許しください・・・。9月公開・鑑賞した作品は当たりが多かった印象です。
まだギリギリ劇場公開している作品もありますので、参考にしていただけたら幸いです!
では行く!
9月に鑑賞した作品
僕が9月に映画館で鑑賞した作品は下記11作品です
- 青くて痛くて脆い
- Reframe THEATER EXPERIENCE with you
- 宇宙でいちばんあかるい屋根
- チィファの手紙
- 窮鼠はチーズの夢を見る
- インターステラー
- クレヨンしんちゃん ラクガキングダム
- TENET
- 喜劇 愛妻物語
- ミッドナイトスワン
- マティアスアンドマキシム
ランキングベスト5
第5位『ミッドナイトスワン』
バイアスがかからないうちに初日に観て、初日に感想書いておいて良かったなと思います。(苦笑)
主人公をトランスジェンダーの女性と設定した以上、色々言われてしまうのは想像できたことなんじゃ・・・と思いますが、「先入観なしに観て欲しい。その上で感想なり批判なり言ってくれ。」という監督の思いは理解できます。
何もそこまで悲惨にしなくてもと観ていて思いましたが、剥き出しで提示してくる心意気というか、胸ぐら掴んで観客に向かってくるパワーに押された映画でしたね。
熱量で行けば9月に観た映画の中ではトップだったかもしれません。
LGBT映画としても極端な描き方ではありますが嘘はないわけで、問題提議の1作としてはありなのではないでしょうか。
あと、この記事だけ普段の10倍くらいの方が読んでくれたので、草なぎくんのファンってすごい熱量だなと・・・。
第4位『TENET』(IMAX版)
ノーラン最新作『TENET テネット』US本予告2020年9月18日 ─ 時間を戻せ、世界を救え
「シネコンを揺らす騒音超大作!」と自分の中で冠つけてます。隣のスクリーンで上映してると、「地震?」と思うほどに爆音のせいで座席が揺れる・・・。特に邦画を見てると、BGMかな?と思ってたら隣のスクリーンから漏れるTENETの音楽だったりってことが多いですね・・・。
あまりの「分からなさ」に、本作は感想を記事にしていません!!
「難解」と言われる本作ですが、逆行についてあんまり深く考えずに見れば、割と「スパイミッション+ロマンスあり」の大作映画として楽しめました。
オーケストラのチューニングシーンから始まるってのがおしゃれだな〜と思います。焦燥感を煽る音楽もめちゃくちゃよかったですね。通勤時iTunesで聴くと自分も世界を救うミッションに出かけている気分になれます。
概ね楽しく見られましたし、この時期にこの規模の大作をやってくれたこと自体ありがたかったのですが、如何せん「逆行」のシステムがいまいち分からず、「あれ。これって逆行してる時に巡行の人に撃たれても死なないのかな?」とか考え出したらこんがらがってしまい、途中から考えることをやめました。
考えるのをやめたせいで、クライマックスの挟み撃ち作戦はもう何が何やら状態。ドンパチやってるけど、「誰と戦ってるんですっけ?」と思いながらドキドキハラハラもせず。あと、オチについても壮大なボーイズラブを見せらた感覚で、「めちゃくちゃ硬派な面構えしといてエモすぎでしょ〜〜!!」と思ってしまいましたね。
4位にしたのは私の知的レベルの問題かもしれません。回転寿司以上の寿司を食べさせられても「美味しいけど、違いがわからない」的な。
ただ、ジェット機追突映像や、セーリングのシーンは、文脈関係なしにとても豪華だし迫力満点で楽しいのでぜひIMAXで観られる人は観て欲しいなと思います。
第3位『チィファの手紙』
どうしても『ラストレター」と比較してしまい上記の記事もそれに終始していますが、単純に素晴らしい群像劇だったなと思います。愛する人の死や、困難が立ちはだかり、立ち止まってしまいそうになる背中をそっと押してくれる作品です。
岩井監督ってあまり自分の主張とかを映画に込めないタイプの監督だと思っていましたが、「リップヴァンウィンクルの花嫁」あたりからなんだか様子が変わってきた印象です。
次回作は、感傷的なところから飛び出して、全くちがうタイプの作品が観てみたいなと思います。
第2位『窮鼠はチーズの夢を見る』
3位か2位か迷ったのですが、挑戦的でありながら、恋愛エンターテイメント映画としての完成度がめちゃくちゃ高いと思ったのでこちらを2位にしました。
上記の記事には書いていませんが、主演の2人を始め女性陣も統率のとれた演技で、訓練された舞台を観ているようでした。行定監督の適切な演出があったのだと思います。
特に、大倉くんを巡っての、成田凌と元カノのキャットファイトは本当に見ものです。ゲイに容赦ないセリフや演出は他のLGBT映画ではあまり観られず、一歩先を行ったなという感じがしました。BL原作ゆえの強みかな。
女性だけではなく、異性愛者の男性陣もこの映画を肯定的に評価している人が多くてそれは意外でしたね。成田凌くんのビジュアルが可愛いので許せたんだろうな。
2020年の代表的な恋愛映画だと思います。
第1位『インターステラー』(IMAX版)
映画『インターステラー』特別予告 2020年9月4日(金)IMAX®にて緊急公開【2週間限定】
旧作ではありますが、あまりの衝撃体験だったので1位にしました。
TENET公開記念のリバイバル上映で鑑賞してきました。今までノーラン監督の作品は『メメント』『インセプション』しか観たことがないので、初『インターステラー』でかつ初IMAX体験でした。
IMAXって、ただスクリーンがでかいだけでしょ?と思っていましたが、いい意味で裏切られましたね。
座席が揺れるほどの爆音と視界を占領するスクリーン。ロケット(?)の発射シーンでは「あれ?4Dだっけ?」と思うほどの臨場感が得られました。視界っぱいの宇宙の映像に、もうこれはアトラクションだなと、自分の中の「映画体験」がアップデートされました。
時間も空間もぐちゃぐちゃの人知を超えた世界で唯一の指標になるのが「愛」というのがいいな。
— 空飛ぶ人♂ (@soratobu_hito) 2020年9月16日
単純に宇宙冒険ものとして観たことのない映像や、ダイナミックな各惑星の映像も楽しいし、何より非常にわかりやすい親子愛というものが軸にあるのでとっても観やすかったですね。AIロボとの友情も胸熱です。
4次元空間に閉じ込められた終盤はもう涙止まらなかったです。愛だけが時空を超えることができるものとして視覚化された映像に深く感動しました。
あまりの衝撃に家に帰ってNetflixで見返したのですが、キョトンとしました。全然ちがう映画じゃん!と。この映画は本当にIMAXでの鑑賞が初鑑賞でよかったなと思いました。
以上!
9月は本当に良作が多かったなと。ランキングに入らなかった「クレヨンしんちゃん」や、「青くて痛くて脆い」も本当に良かったので、気になる方は上映しているうちに映画館へ!!
映画『星の子』の感想 ちひろ の生い立ちより超有名子役 芦田愛菜の人生の方がレアだよな
こんにちは。空飛ぶ人です。
芦田愛菜先生久々の主演映画ということで話題になっていました『星の子』を鑑賞してきました。予告を観て「何だか重そうだな」と多少身構えていました。新興宗教を信仰する親の元に生まれた子が、世間からの差別に両親と宗教に対して疑問を抱き葛藤してぶつかり合うような内容かしらと思っていましたが、全然違いました。家族という最小単位の国・宗教を強調するために新興宗教こそ登場しますが、ベースは親離れ子離れのお話で、すごくあったかいコメディ映画に感じました。
新興宗教あるあるで笑わせてきたり、すごく微妙な挑戦してるなと思いましたね。案外身の回りに新興宗教やマルチ的なビジネスをやってる人って多いので共感できる人も多いと思います。
まあ正直ちひろの生い立ちより、超有名子役として育った芦田愛菜さんの人生の方に興味はあるんですけども・・・。
<作品情報・あらすじ>
監督:大森立嗣
公開日:2020年10月9日
大好きなお父さんとお母さんから愛情たっぷりに育てられたちひろだが、その両親は、病弱だった幼少期のちひろを治した“あやしい宗教”を深く信じていた。中学3年になったちひろは、一目惚れしてしまった新任のイケメン先生に、夜の公園で奇妙な儀式をする両親を見られてしまう。そして、彼女の心を大きく揺さぶる事件が起きるー。
<感想>
■両親が宗教にはまっていく過程に納得
映画冒頭、この家族が新興宗教に出会いはまっていく過程がダイジェストで描かれます。
主人公ちひろは虚弱体質で生まれ、母はちひろの謎の湿疹に悩まされます。病院にかかっても治らず、両親ともに途方に暮れていたある日、父は会社で同僚から「水が良くないのでは」と、ある水を勧められます。
その水を使いだしてから湿疹の症状がみるみる良くなるちひろ。ちひろとその家族を救ったその水は、とある新興宗教が「特別な水」として売り出しているものでした。それをきっかけとしてちひろの両親は、この新興宗教に心酔してゆくことになります。
この過程を見せられたら、子を持つ親なら誰もがちひろの両親に共感してしまうのではないでしょうか。
僕は子供はいませんが、自分自身が小児アトピー、喘息持ちだったので、幼い頃謎の民間療法を色々と試させられました。なんか春先の冷たい海に全裸で入れられたこともありましたね・・・。当時は多分明確な治療法も確立してなかったんだと思います。自分の親も藁にもすがる思いをしていたのかと思うと、この冒頭のシーンで涙ぐんでしまいました。
■宗教一家として困難もありながらちひろは割とすくすく育つ
「変な宗教」を信仰している家族ということで、両親は大人の世界で様々な苦労をしますが、ちひろ自体は友人に恵まれて割とすくすくと育っていきます。
(だからこそ後々の初恋相手からの心無い攻撃が効いてくるのですが・・・。)
特に親友なべちゃんのちひろとの関わり方は気持ちよかったですね、「変な宗教やってて、家が貧乏」と本人を目の前にちひろを評しながらも、決してちひろ自身を否定することはありませんでした。なべちゃんに限らず、周りの子もちひろに対して嫌悪感を抱いている印象はありませんでした。その辺り、すごくリアルだなと感じましたね。
大人は異質なものがあると自分の価値観ですぐに否定して排除しようとしますが、子供ってもっと柔軟なんですよね。
■岡田将生が先生を演じると不安を感じる=ビンゴ
ちひろが恋するイケメン教師の南先生。演じるのは今や”外面がいい嫌な奴”演じさせたら右に出るものはいない岡田将生くんなのですが、今回も絶妙に嫌な奴を演じてくれましたね。
ホームルームの場で生徒を叱咤する際思いっきりちひろとちひろ一家の信仰する宗教を全否定してちひろを傷つけるのですが、彼自身ちひろとその宗教を嫌悪しているのではなくて、自分の体裁を守るための罵声だったんですよね。自分のことしか考えてない嫌な奴に見えますが、誰しも自分を守るため、大きく見せるために”かます”ことってあると思うんですが、それが滑ったいい例だなと思いました。だから彼も僕は憎めませんでした。
恋する南先生に自分も宗教も家族も否定されて、ちひろは生まれてはじめて自分の家族と宗教の外界からの評価を知り苦しみます。
ここでもっと家族とぶつかるのかしら??と思いきや、この一件は親友なべちゃんとその彼氏のフォローであっさりと幕を閉じます。
ちなみになべちゃんの彼氏はめちゃくちゃいい奴で可愛いです。
■精神世界の終盤
物語の終盤は、家族で出かける宗教の勉強会旅行です。この場面はずーと夢の中にいるような不思議な演出がなされます。
勉強会に向かうバスで両親と離れ離れになってから、会場では母の姿が一切見えなくなる。必死に探すちひろは、中学3年生にしては幼い印象です。
夜になりようやく両親と合流できたちひろ。両親は星を見に行こうとちひろを散歩に誘います。ちひろは入浴時間が23時までだからお風呂はいってからの方がいいんじゃない?と言いますが、父は「時間のことは気にするな」の一点張り。
お目当の場所について星を眺めるちひろとその両親。両親は流れ星を見つけますが、ちひろはどうしても両親が見ている流れ星が見つけられません。
そのまま映画は幕を閉じます。
家族が世界の全てである幼少期。ちひろはそのまま中学生になった少女だったのだと思います。精神的な臍の緒が切れていない親子。しかし中学3年生になり彼女の世界と価値観は大きく広がっていきます。これまで盲目的に信じていた両親に疑いを持ちますが、それは騙されていたということではなく両親にとっての真実であり自分自身への愛なのだと知り、彼女もまた両親とは違う自分だけの真実を掴んで、ゆっくりとへその緒を解いたのだと思います。
すれ違う流れ星は穏やかなちひろの親離れを示唆していたのかなと僕は感じました。
■ラストにはちょっと不満
宗教というちょっと厄介なものを扱いながらも、割とユーモアを持って観せてくれたので、意外にも観やすかった作品でした。
しかし正直なお話、ちひろの心理描写について説明過多かなと思う部分もあれば、説明がなさすぎる部分もあるので、学校で展開するストーリーと、家庭・宗教の場でのちひろのギャップに心情がイマイチ捕らえずらくて、「うむむむ」と難解に思ってしまう部分もありました。
終盤の展開も、観客に想像させて委ねてくれると言えば聞こえはいいですが、あとはお好きにどうぞ!と丸投げされている感じがして、エンドロールが流れた瞬間僕はポカーンとしてしまいましたね。物足りないなぁと。
自分の価値観が下品なだけかもしれません!
■キャスト陣には文句なし
主要キャストの芦田愛菜、永瀬さん、原田さんはもちろんですが、ちひろの幼少期を演じた子役の粟野咲莉ちゃんがとにかく最高でしたね。
💫キャラクター紹介〈ちひろの家族〉💫
— 映画『星の子』公式 (@hoshi_no_ko_jp) 2020年10月3日
幼少期のちひろ/ #粟野咲莉
小学5年生。エドワード・ファーロングを見てから周りがブサイクに見える。#星の子 pic.twitter.com/82ao2rdWt7
両親に絶大な信頼を置く天真爛漫でどこかヌけているちひろをすごくキュートに演じていました。特に、姉と話をしている際にパンを口にしてむせるシーンがあるのですが、あの自然さは大人の役者さんでも難しいのではないでしょうか。
後個人的には、親友なべちゃんの彼氏を演じた田村飛呂人君は、中学生らしいお調子者ながら一途でイイやつをこれまた自然に演じていて、まじで可愛いな〜と。映画の中の一服の清涼剤として十分に機能していたと思います。こういう奴が一番モテるんですよね。
💫キャラクター紹介〈ちひろの友人〉💫
— 映画『星の子』公式 (@hoshi_no_ko_jp) 2020年10月8日
新村くん/ #田村飛呂人
まっすぐで馬鹿正直な、なべちゃんの彼氏。#星の子 pic.twitter.com/KyqoeyEBtK
主演の芦田愛菜ちゃんについては、久々の出演作品にこの映画を選択されたことに賞賛を送りたいですね。これまで得意としていた感情を爆発させた涙!怒号!みたいな役柄ではなく、内に内に感情が向く繊細さと、女子中学生らしい天真爛漫さを併せ持つ役柄を本当に見事に演じられていたと思います。
結論、「宗教」という繊細なものを扱いながらも、子供の精神的な親からの巣立ちをとても優しい視点で見せてくれてくれて満足はしていますが、多少肩透かしというか残念だなと思う部分が残る作品でした。期待が大きかったからかもしれません。
鑑賞日:2020年10月9日
おすすめ度:★★★★★★(6/10)
映画『生きちゃった』の感想 厚久・武田・奈津美がそこに「生きている」
こんにちは。空飛ぶ人です。
仲野太賀くんが熱いですね。ここ1〜2年でメジャーなテレビドラマや映画への出演が増えて、太賀くんファンとしては嬉しい限り。がっつり主演を張る映画ということで非常に楽しみにしていた『生きちゃった』。
日本人監督、舞台も日本、キャストも日本人でありながら、中国資本という不思議な製作背景があります。「映画製作の原点回帰」というコンセプトのプロジェクトの元で製作された1作で、アジア各国での公開も決まっているとのこと。
ぶっちゃけ、「よく分かんね!!」と思いましたが、主演3人の演技を超越した魂を捉えた映像に心揺さぶられることは間違いありません。
石井監督にとっての「映画製作の原点回帰」とは何だったのでしょうか。
感想と言えるほどまとまってはいませんが、作品を観ている中での”引っかかり”を中心に述べていきたいと思います。
<作品情報・あらすじ>
監督:石井裕也
公開日:2020年10月3日
幼馴染の厚久と武田。そして奈津美。学生時代から3人はいつも一緒に過ごしてきた。そして、ふたりの男はひとりの女性を愛した。30歳になった今、厚久と奈津美は結婚し、5歳の娘がいる。ささやかな暮らし、それなりの生活。
だがある日、厚久が会社を早退して家に帰ると、奈津美が見知らぬ男と肌を重ねていた。その日を境に厚久と奈津美、武田の歪んでいた関係が動き出す。そして待ち構えていたのは壮絶な運命だった。
<感想>
厚久を追い詰めたのは何だったのか
将来性のないオンライン書店の倉庫での仕事、真夏にクーラーもつけられない困窮した生活、そこから脱却するために親友と開業するという夢はありながらも、上手くいくような兆しもない。狭いアパートの暮らしや、セピア色をした実家、ただただ「生きちゃっている」年老いた両親の描かれ方に閉塞感をより一層感じました。(映画見ていて久々に「美術すげーな」と思いました。)
主人公 厚久の妻である奈津美の不倫発覚をきっかけに、物語はとにかく理不尽なほど最悪の展開を繰り広げていきます。
厚久は不倫をした妻から一方的に離婚を言い渡されても、何も物言わずただただ自分を責めるような表情をして飲み込みます。妻を責めることも、彼女に「愛している」と伝えることもできたのに、彼は「わかった」とだけ言うのです。
「本当のことを伝える」その難しさや、苦しみは共感できるのですが、彼がものを言わないことで事態は悪くなる。何かを言いたそうな表情をしながらそれを飲み込み苦しそうな顔をする厚久を観ると、何が一体彼をそこまで追い詰めたのだろうか。とずっと疑問が残りました。
唯一明確に彼の変化のきっかけとして描かれていたのが、奈津美と結婚する前に婚約をしていた女性の存在です。厚久には奈津美と結婚する前に婚約をしていた女性がいたのですが、何らかの理由から奈津美の方を選びます。
数年後、厚久の前にその女性が現れ、自分は子供が産めない体であったこと、自分を選ばなくて正解だったと思うということを告げるのです。厚久はただただ「ごめん」と泣き崩れます。
自分の選択や発言が、誰かを傷つけ、誰かの人生を狂わせてしまう。相手が愛している人や近しい人ならなおさらのことで、厚久はその重圧から自分の本音を口にすることを躊躇し始めたのかなと思いましたが、それだけではなさそうです。
心のよりどころであった祖父の死、妻と子供のために稼ごうとするが抜け出せない貧困も要因の1つだったのかもしれません。
武田の厚久への献身の理由は「友達だから」だけなのか
抜け出せない負のスパイラルの中にある厚久に最後まで寄り添うのが親友の武田なのですが、「お前らにかまっているほど暇じゃないんだ」と言いながらその距離感は、普通の友人・親友のそれとは明らかに異なります。
かつて厚久と弾き語りでの成功を夢見たバディであり、今も一緒に起業を目出しているということなので、普通の親友以上の信頼関係があるのは判りますが、彼の厚久との向かい合い方には、厚久が幸せになるのを見届けなければならないという「執着」すら感じます。
奈津美が学生のころ武田に好意を持っていたということは奈津美の口から語られますが、武田も同じくかつては奈津美を好きだったのだと思います。
奈津美が大変だったころ、奈津美に寄り添えなかった自分と、厚久に隠している奈津美への感情から、武田は厚久に対して罪悪感のようなものを抱いていたのかもしれません。
リフレインされるセリフと、男二人の舞台的な台詞回し
「本当のことを言えないんだ。僕が日本人だからかな。」親友の武田に何度もそう漏らす厚久。「どうしてかな。英語だと本音が言える。I love my wife. I really really really really love my wife.」という共感を伴う印象的なセリフ。
キャスト陣の演技は非常にリアリティがあるのですが、セリフは非常に舞台的というのか、作り込まれている印象でした。特に厚久と武田のやり取りは、何だか噛み合っていないな。と思うところもありました。「30代の男友達がこんな会話のやり取りするかね」と。何だか日本語翻訳された海外の台本を演じているような違和感を感じたのですが、決して嫌な感じではなく、言葉の1つ1つが粒だって聞こえてきたのが不思議でした。
魂の叫びとそのぶつかり合いを見せるクライマックス=「映画」を取り戻す
ポスタービジュアルにもなっているクライマックスのシーンはとにかく圧巻でした。
監督、キャスト、映画のすべての力がそこに注がれている。このクライマックスを見せるための映画だったのだなと思いました。上映後のトークショーで太賀君も語っていましたが、このシーンへのプレッシャーは相当なものだったようです。
「本当のことを言えない」という苦しみを抱く厚久が「言えないかもしれない」と言いながらもがいて一歩踏み出そうとする姿はまさに演技を超越していたと思います。全裸見せるよりきつかったんじゃないかなと。
『舟を編む』で多くの賞を受賞し、以降原作ものの監督を手掛けてきた石井監督。映画監督としては若いのですが、監督業としてのキャリアは確立されています。
今回、監督が挑んだ「映画製作の原点回帰」とは、これまで培った技術で「そう観える」ように撮るのではなく、「本物を切り取る」ということへの挑戦だったのではないかなと思います。映画の中で生きる3人の丸裸の感情を切り取って見せている。何よりキャストへのリスペクトがあるので、映画冒頭のクレジットは監督より先に主要キャストの名前が出てきたのだと思います。
最後に
凄くパーソナルな内容でありながら、根底には今の日本の問題が潜んでいるようにも思えます。1億総「生きちゃっている」時代、自分の人生を取り戻して「生きる」ことの難しさをみせられながら、その覚悟を持てと言われているようでした。
鑑賞してしばらく時間が経ちますが、この映画人に勧められるかどうかと言われるとやっぱり「よく分からん!!」としか言えません。製作陣の独りよがりな感じもありますし、とにかく観ていて辛いし。嘘くさくも感じなくもないし、すごくリアルにも感じるし。未だ自分の中でどういう位置の映画なのかわからない。こらえ切れなかった涙も何に対して流したのかいまだに説明できない・・・。
ひと一人の人生を観て、「この人は幸せか、不幸か」と問われたら、おそらく答えられないと思うのですが、そんな感じ。
ただ間違いなく、多くの人に観てほしい。「駄作だ!」と感じる人もいると思うけど、そういう人とこの映画について話をしたいな。
鑑賞日:2020年10月10日
おすすめ度:★★★★★★(6/10)
映画『浅田家!』の感想 誠実な印象だったからこそ、もっと”政志と浅田家の物語”を観たかった
©2020「浅田家!」製作委員会
こんにちは。空飛ぶ人です。
豪華キャスト大集合の『浅田家!』を観てきました。いやいや、今年一番泣いた2時間でした。序盤からクライマックスまで何度涙したか。笑えて泣けて、映画館を後にするときには気分爽快!なんですけど・・・。
いじわるに言うと、”奇跡体験アンビリバボーの当たり回”って感じの映画でした。
<作品情報・あらすじ>
監督:中野量太
公開日:2020年10月2日
幼いころ、写真好きの父からカメラを譲ってもらった政志(二宮和也)は、昔から写真を撮るのが大好きだった。そんな彼が、家族全員を巻き込んで、消防士、レーサー、ヒーロー、大食い選手権……。それぞれが“なりたかった職業”“やってみたかったこと”をテーマにコスプレし、その姿を撮影したユニークすぎる《家族写真》が、なんと写真界の芥川賞・木村伊兵衛写真賞を受賞! 受賞をきっかけに日本中の家族から撮影依頼を受け、写真家としてようやく軌道に乗り始めたとき、東日本大震災が起こる―― 。
かつて撮影した家族の安否を確かめるために向かった被災地で、政志が目にしたのは、家族や家を失った人々の姿だった。「家族ってなんだろう?」
「写真家の自分にできることは何だろう?」シャッターを切ることができず、自問自答をくり返す政志だったが、ある時、津波で泥だらけになった写真を一枚一枚洗って、家族の元に返すボランティア活動に励む人々と出会う。彼らと共に《写真洗浄》を続け、そこで写真を見つけ嬉しそうに帰っていく人々の笑顔に触れることで、次第に《写真の持つチカラ》を信じられるようになる。そんな時、一人の少女が現れる。
「私も家族写真を撮って欲しい!」
それは、津波で父親を失った少女の願いだった―― 。
<感想>
豪華出演陣の足並みそろったチームワークを感じる演技が見どころ
主演の二宮君、妻夫木聡、風吹ジュン、平田 満が演じる「浅田家」の面々をはじめ、黒木華、外川美智子、渋川謙三と、個性的で豪華な俳優陣が揃いながら、足並みそろったチームワークを感じるキャストでした。
特に僕的には妻夫木君と黒木華が良かったなと思ってます。
引用:『浅田家!』公式WEBサイトより
妻夫木君は、自由で奔放な弟(二宮)を持つ浅田家の長男を演じますが、「普通でいい奴」を演じさせたら天下一品ですね。匠の域じゃないかと。以下のツイートをしてますが、男性版ガッキーだなと思います。
『浅田家!』
— 空飛ぶ人♂ (@soratobu_hito) 2020年10月4日
妻夫木聡は私の永遠のアイドルだと再確認した映画でした。
私も妻夫木君みたいなお兄ちゃんが欲しかった。いや、妻夫木君の弟に生まれたかった。
正直「いつまでそれやるの?」と思うけど、ガッキーが許されてるなら、ブッキーもそれでいいと思ってる。普通のいい奴やらせたら天下一品。 pic.twitter.com/rnlaLnABDh
引用:『浅田家!』公式WEBサイトより
黒木華についてはボソボソ喋って内向的な役が多い印象で、世間的に評価が高いのですが苦手なタイプの女優さんでした。しかし今回は主人公の政志を支える”陽”の存在として、しっかり映画の華となっていました。プロポーズのシーンは最高に可愛かったです。
外しの要素としての菅田将暉もやり過ぎ感が無くとてもよかったと思います。
欲張り過ぎでは・・・
キャストは素晴らしかったのですが、不満点もあります。
物語は大雑把に言うと、政志が写真と出会い写真家として軌道に乗るまでの前半、大震災以降写真家として葛藤する後半の2幕構成です。
僕的にはこの物語は政志の写真家・表現者としての葛藤と成長を描くハートフルコメディだと思って観始めたのですが、被写体として向き合う浅田家以外の家族の物語もあって、そっちの方が泣けてしまうのです。
なんだかお子様ランチみたいな、あれも美味しいし、これも美味しい。美味しかったけど、食べ終えた時に「あれ?僕は何食べたんだっけ?」という感想。政志の写真家としての成長を見せたかったのか、家族の良さを伝えたかったのか、写真というものの持つ力を伝えたかったのか、正直よくわかりませんでした。
観終わってしばらくたった今、後味すっきりに仕上げられて、「あー感動した!」という爽快感で、ごまかされた気がします。
主人公の葛藤・成長がわかりずらい
主人公政志の写真家としての苦悩・葛藤があまり描かれないため、僕は政志に感情移入ができませんでした。「のほほんとやってたら賞を取って順風満帆!」みたいに見えてしまいました。
映画のクライマックスは、震災以降悲惨な現実の前に写真を撮る意味を見失った政志が、被写体の家族と向き合うことでそこに再度写真を撮る意味を見出すところにあったのかなと思いますが、「なぜまた家族写真を撮ろうと思えたのか」というところが今でもわからない・・・。現実なんてそんなものかもしれませんが、「実話をベースにしている」ってことで丸め込まれたような気がしてしまいました。
もっと観たいところがあった
学生のころ家族写真で賞を取ってからしばらく写真から遠ざかってしまった理由、また自分の家族を被写体にして写真と向き合おうと思えるまでの過程、本を出版しても鳴かず飛ばずの中、ずっと自分を支えてくれる彼女への思い、そういうものが割とすっ飛ばされています。ほぼダイジェスト。好き勝手にやってる弟と、家というものを守ろうとする兄。兄弟間の確執もあったはずです。
凄く誠実に作られている印象だったからこそ、もっと丁寧な”浅田家の物語”を観たかったな。
素直に「家族っていいな」と思える
なんだか不満ばかりになってしまいましたが、観ている最中はとにかく目の前の出来事に笑って泣けて心温まる時間を過ごせました。素直に「家族っていいよな」と思いましたね。休みの日に家族や恋人と観たら、そばにいる人をもっと大事にしようと思えるのではないでしょうか。
おすすめ度:★★★★★★(6/10)
鑑賞日:2020年10月4日