空飛ぶ映画レビュー

主に新作映画の感想を綴ります。

『ソワレ』の感想 誰かがきっと見てくれている という希望

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引用:https://soiree-movie.jp/ 映画公式WEBサイトより

映画『ソワレ』の感想  誰かがきっと見てくれている という希望

監督:外山文治

公開日:2020年8月28日

鑑賞日:2020年8月28日

おすすめ度:★★★★★★(6/10) 

<あらすじ>

俳優を目指して上京するも結果が出ず、今ではオレオレ詐欺に加担して食い扶持を稼いでいる翔太。ある夏の日、故郷・和歌山の海辺にある高齢者施設で演劇を教えることになった翔太は、そこで働くタカラと出会う。数日後、祭りに誘うためにタカラの家を訪れた翔太は、刑務所帰りの父親から激しい暴行を受けるタカラを目撃する。咄嗟に止めに入る翔太。それを庇うタカラの手が血に染まる。逃げ場のない現実に絶望し佇むタカラを見つめる翔太は、やがてその手を取って夏のざわめきの中に駆け出していく。こうして、二人の「かけおち」とも呼べる逃避行の旅が始まった──。

https://soiree-movie.jp/ 

 


映画『ソワレ』特報

<感想>

テアトル新宿にて鑑賞してきました。舞台挨拶付きの上映に。

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プロデューサーとして参加されている豊原功補氏、「やっぱり男前だな。」と見とれているうちにあっという間に本編開始で、ちょっと気持ちが追いつかず・・・。

 

最初に述べておくと、万人にお勧めできるような映画ではないです。見るのに精神的に負荷がかかりますし、平日の仕事終わりなんかに見た日にゃ、翌日のパフォーマンスに影響しますので要注意です。制作陣の熱のこもった映画だなというのが観ていてわかるのですが、素人ながら「惜しいな・・・」と思う点が何か所かありました。

 

映像はそのロケーションも含めて終始美しいのですが、ヒロインのタカラの境遇が悲惨(その一言で片づけるのはどうかと思いますが)過ぎて、特に前半は観ていてしんどいです。また、主人公翔太の行動原理もいまいちわからず、感情移入しずらい部分があります。

タカラは幼いころより父から虐待(性的含む)を受けており、父を取られたということで母親とも折り合いが悪い。父が強姦事件で逮捕されてからは高校を中退し山奥の介護施設で働きます。仕事もつらいが「つらいときはこうやって笑うんだ(頬を指でこする)」と自分で自分を励まして一人で何とか踏ん張っているところに、不幸の元凶である父が出所して帰ってくる。口論から父の暴力に発展して、タカラは父を刺してしまいます。

そんなタカラの手を取り、がんじがらめの状況から連れ出すのが翔太なのですが、なぜ翔太はタカラと一緒に逃げたのかというところがいまいちわからず。翔太に迷惑がかかるから自首をするというタカラに対し「なんで弱い奴や必死な奴ばかり損をしなきゃいけないんだ」と言って手を引くので、タカラの姿に自分の状況を重ねたからだとは思いますが・・・。前半どうでもいい老人介護施設のエピソードに時間を割くわりに、この翔太のキャラクターが深彫りされておらず共感ができないんですよね。
役者という仕事に行き詰まり、おれおれ詐欺の受け子で生活をつないでいるのですが、「かつて必死にやったけど上手くいかずに腐っている。」っていうのがわからないんです。それがちゃんと描かれていたら、観客も2人と一緒によーいドン!で気持ちが付いて行ったと思います。

 

気になった点の2つ目が、エビソードの組み方です。

翔太がタカラの指先を見て、同年代の普通の女の子とは違った苦労している手だと気が付くシーンがあるのですが、それってもっと早い段階の方が効果的だったのでは?と思いました。老人介護施設の段階で気が付いただろうと。対比する相手として、劇団員の可愛い女の子もいただろうと。老人介護施設に居た段階で、そのくらい気になっている描写が無いと、「一緒に逃げる」ってところまでいかないと思うんです。

逆に、2人の心の交流を影のダンスで表現するシーンがあるのですが、序盤過ぎて2人の関係性がまだ微妙な距離なので観ていて「なんじゃこりゃ」と思ってしまいました。これはもっと後半、逃亡に疲れ切ったころに置いたら良かったんじゃないかと思います。
映像的にはとてもロマンチックで照れちゃうほど美しかったです。

 

なんだか文句ばっかりになってしまいましたが、決して嫌いな映画ではありません。
2時間ほぼ2人のシーンが続くので主演の2人には愛着がわいていきます。そこは役者の力が大きいと思います。芋生悠ちゃんは感情の動きが大きくあわや支離滅裂に見えてしまいそうなタカラを絶妙なバランスでちゃんと生きたキャラクターとして見せていました。「2人を抱きしめてあげたい!!」と何度思ったか。アップの表情が良くて、引き込まれました。

 

家族からも、社会からも「無いもの」にされて、山奥の老人介護施設に追いやられたタカラ。その手を引いて街に連れ出す(逃げる)翔太。たった一人との出会いが、救いとなり、行けないとあきらめていた場所に行ける。投げ出さずにもがいていれば、水面に藁はたゆたっているのだと、希望を込めてそう思います。

 

ラストに用意された優しい魔法みたいな伏線の回収は、観客へのサービスと監督自身の「映画」そのものへの希望だったのかなと思います。ラストに用意されたこの仕掛けのせいで、エンドロール中僕はまた映画を一から回想していました。

「誰かがきっと見てくれている。」
たった一人を救うことが出来たら、それは映画として意味があると私もそう思います。

重厚な映画体験がしたい方には劇場での鑑賞をお勧めします。

soiree-movie.jp

 

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